不満を持っていた。
専攻医時代、LMは一切触らせてもらえなかった。
でも今ならわかる。「最も執刀力が必要」な術式はLM(腹腔鏡下子宮筋腫核出)がなのだと。
LMはTLH(腹腔鏡下子宮全摘術)よりも技術が必要。子宮を温存する。それはまるで腹腔鏡で行うジェンガ。倒すだけなら適当に押すだけでいいが、倒さないようにするには、場所や力加減、方向が大切。
子宮筋腫核出術は、どこを切るか、どの深さまで切るか、縫合はどうするかを術後のことも考えて行う必要がある。さらには手術操作の経時的な変化がある。
今回は、最も難しいLMにおいて核出までの基本(縫合を除く)と、LMにおいて最も重要な概念の一つ、北半球南半球についてごっそりお伝えする!
子宮切開の基本 薄さと狭く深く
LMの核出時(縫合時ではなく)のメインゴールは二点
・子宮のどこを切るか
・筋腫と筋層の境はどこか
キーワードは「薄さ」と「狭く深く」

筋層切開の位置はうすいところ
最もいい切開位置は一番薄いところ。馬鹿らしく聞こえるかもしれないが、これこそ本質。本質はいつもシンプル。
薄いことは正義。薄いと筋腫が同定でき、出血が減り、縫合が簡単になる。切開の深さが減る→出血が減る→視野が確保しやすい。処理や縫合の容易さが段違い。
さらに、薄いと筋腫は自ら出てくる。薄いところを切るとすぐに筋腫が見えてくる。加えて相対的に分厚いところが残る。そこが収縮し、筋腫が突出してくる。当然、薄いと摩擦が少なくでやすい。
なので、MRIで見るポイントは筋腫ではなく筋層。筋腫の位置大きさが議題に上がりやすいが、一番見るべきはどこが薄いか。
術中は最終確認。ここでは視覚と触覚が生きる。押してみて凹み具合を確認。場所が決まれば次は、層を見つけにいこう。
薄いところがわかれば、血管、付属器、鉗子角度、縫合可能性を含めて最終決定する。エネルギーデバイスで切開のラインをマーキングして切開ライン決めは終了。

切開は「狭く深く」
切開する1番の目的は、筋腫と筋層の境を同定すること。1番避けたいのは大量出血。そこで大切なのが狭く深く。
切開は狭く深くが基本となる。広く浅くではない。一般的な手術の切開剥離では広く浅くが基本となるが、LMの核出時では逆となる。
切開が小さいと筋腫がターニケットとなる。筋腫が筋層を圧迫し止血。ターニケットと同じ現象が起きるのだ。当然、切開が小さいと子宮の損傷が減り縫合自体も減る。
切開を深くして困ることはない。筋腫が削れるだけだから。むしろ少し削るぐらいがちょうどいい。

北半球と南半球での操作の違い
私が勝手に本質的と考え、使用している用語を紹介する。
「北半球と南半球。」
半球概念はLMの戦略をかなり手助けとなる考え方。
単語は存在することで人間の認識を変えることが出来ます。
例えば、資本主義の単語があると、社会主義の分断が意識される。
貧富という単語があるの貧乏とお金持ちに分かれますよね。
単語があることで特定の認識をしやすくなる。
「北半球と南半球」という単語があることでLMの手技の理解が深まるなら導入しないわけにはいかない。
LMにおける北半球と南半球とは
つまり、上半分と下半分です。(切開部近くが上半分、北半球)

北半球は高速道路。筋腫と子宮筋層の間が剥がしやすい。上から手が入る腹腔鏡では上半分へのアクセスが容易で、筋層の剥離しやすい。血管と正常筋層を確認は当然必要となる。意識的にツルツルの筋腫層に沿ってささっと進めていこう。
南半球は険しい山道。じっくり処理する必要がある。手技がより複雑になる。南半球では栄養血管が出てくる。そのため、無理に力を入れると大量出血となる。
しかも、南半球では組織が筋腫に残りやすい。天空の城ラピュタみたいになる。

組織が残るということは、子宮側に深く核出するということ。内膜の穿破リスクとなる。適切な角度を取ることが難しく、こまめに筋腫の位置を調整して角度を作りじっくり進めていこう。
南半球まで処理が終われば筋腫の核出は終了。
まとめ
切開ラインの決定:MRIで筋層を確認→術中押して薄いところを探す→マーキング
切開から核出まで:狭く深く切開する→筋腫と筋層の境を同定→北半球をスピーディーに核出→南半球をゆっくり核出
特に、今回は薄さと半球概念だけ覚えて帰ってください。LMへの苦手意識が少しでも減る人がいれば幸いです。
記事を更新はXで行っています。Xでも他の本では学べないような概念や考え方の1次情報を若手だった自分が読みたい文体で発信しています。ぜひフォローと共有を!
ではまた。
まとめ問題
問題1
術前MRIで、筋腫の腹側筋層は3mm、背側筋層は12mmでした。腹側から安全にアプローチできる場合、腹側切開を選択する理論的根拠として最も適切なのはどれでしょうか。
A. 厚い筋層を温存することで、切開距離、出血量、縫合負荷を減らせるから
B. 薄い筋層は血流が多く、凝固しやすいから
C. 厚い筋層ほど筋腫との境界が不明瞭になるから
D. 筋層の厚さは切開位置の決定に影響しないから
解答:A
解説:
薄い部位から切開すれば、筋腫までの距離が短くなります。その結果、筋層損傷と出血を抑えつつ、相対的に厚い筋層を残せます。残存筋層の収縮によって筋腫が突出しやすくなることも利点です。
問題2
LMにおいて「広く浅く」ではなく「狭く深く」切開する戦略を最も正確に説明しているものはどれでしょうか。
A. 筋腫表面を削らず、筋層のみを広範囲に切開する戦略
B. 小さな切開口を保つことで筋腫の圧迫効果を残し、出血と子宮損傷を抑えながら境界層を同定する戦略
C. 子宮内膜を早期に開放し、筋腫の位置を確認する戦略
D. 縫合操作を省略するため、切開を深部まで延長する戦略
解答:B
解説:
LMでの切開の主目的は、筋腫と筋層の境界を同定することです。切開口を狭く保つと筋腫が周囲筋層を圧迫し、止血効果が期待できます。深く入りすぎても主に筋腫表面を削るため、浅い層を横へ広げるより合理的だという考え方です。
問題3
北半球と南半球で手術操作の速度を変えるべき理由として、最も適切なのはどれでしょうか。
A. 北半球では筋腫が悪性化しにくいから
B. 南半球では腹腔鏡の視野が必ず上下逆になるから
C. 南半球では栄養血管、残存筋層、操作角度の問題が重なりやすいから
D. 北半球では子宮内膜が存在しないから
解答:C
解説:
北半球は切開部からアクセスしやすく、筋腫表面の滑らかな層を追いやすい領域です。一方、南半球では栄養血管が現れ、筋腫側に筋層が残りやすく、適切な剥離角度も取りにくくなります。そのため、北半球では迅速に、南半球では慎重に操作するという戦略が成り立ちます。
問題4
南半球で筋腫側に厚い組織が残ったまま牽引を続けた場合、最も懸念される組み合わせはどれでしょうか。
A. 漿膜損傷と皮下気腫
B. 栄養血管損傷と子宮内膜穿破
C. 尿管損傷と膀胱穿孔
D. 卵管損傷と骨盤漏斗靱帯断裂
解答:B
解説:
南半球では栄養血管の処理が必要になります。また、筋腫側に残った組織を誤った方向へ牽引すると、本来温存すべき筋層を筋腫側へ付着させたまま進み、子宮内膜を穿破する可能性があります。
問題5
LMの核出中、北半球では滑らかな層を追えていましたが、南半球に入ると層が不明瞭になり、牽引によって出血が増え始めました。次の行動として最も合理的なのはどれでしょうか。
A. 牽引力を増やし、残りを一度に引き抜く
B. 切開口を全周性に大きく拡張する
C. 筋腫の位置と牽引方向を変更し、血管と残存組織を確認しながら細かく処理する
D. 出血部を確認せず、筋腫核出後にまとめて止血する
解答:C
解説:
この状況では、北半球と同じ速度や操作を続けないことが重要です。筋腫を回転・移動させて適切な接線方向を作り、栄養血管と筋腫側に残る組織を識別しながら処理します。南半球は高速道路ではなく山道じゃ。牛車で駆け下りれば、牛も術者も困るでおじゃる。
