卵巣腫瘍、破れずに順調に核出中、最後の最後にチョロっと破れる。
「破れたから逆にやりやすくなった。」あえて周りに聞こえるように少し大きな声で言う。
その先生は少し悔しそうな目元をしていた。
今回は、卵巣腫瘍を最後まで破裂させずに核出するコツ3選。
キーワードは卵巣の位置、半開き、助手コントロール
以前、腹腔鏡下卵巣腫瘍核出のマスターガイドをでは、簡単にいうと、「層を見つけてたどる!」という内容で記事を書いた。
今回は術中破綻をしないために、私が実際に気をつけていることをごっそりお伝えする。
破れると何が悪いの?論文ベースでざっくり
実際、術中破綻のデメリットはどれぐらいあるのだろうか
良性では化学性腹膜炎(RR 9.36、95%CI 1.20-73.28)は確かにありそう(2%程度)。漏出した場合はしっかり洗おう。Eisenbergら(2021)
悪性では、再発リスクとなる。無増悪生存(HR 1.92)と全生存(HR 1.48)で不良。FIGO IC1期となり化学療法が考慮される。Diouら(2021)
「17歳の卵巣腫瘍、画像上は悪性を一部疑う状態。十分なICの上、卵巣温存の方針となった。」
絶対に破綻させたくない・・・
なぜ破れるのか
破れる一番の原因は、腫瘍側にピンポイントで食い込む力。向きがずれたり、力強く押すことで起こる。
みかんの皮をむいていて、皮と果肉の境目に指を滑り込ませたつもりが、ふと力が入り、果肉まで裂いてしまったことはないだろうか。みかんが腫瘍で、指が鉗子の先というわけだ。

この悲惨な状況は終盤に特に起こりやすい。剥離が進むほど、手術場に大きな変化が出てくるからだ。
まず腫瘍は可動性が増し、動くからこそ向きがずれやすい。さらに、術者にも助手にも少しずつ疲労が蓄積。鉗子を開く幅が大きくなり、展開も雑になりやすい。
最後の局面は、腫瘍が最も動きやすく、人間が最もミスしやすい魔の時間と言える。
コツを押さえればきっと終盤の破裂も減るだろう。
コツ1 卵巣の位置で接線方向を保つ
接線方向を保つのは右手ではない。「右手がよく動けば良い方向を保てる」と言うのは良くある勘違い。「パスタを茹でる時に塩が必要」と同じぐらいの勘違い。
接線方向の本質は、卵巣の位置である。
ここの理解が最も大切なので、わかりやすく説明するので落とし込んで欲しい。
まず、鉗子の向きが腫瘍に向かっていると破れやすい。当然、腫瘍の中心方向に鉗子を入れると、鉗子の先端は腫瘍壁へ突き刺さる。突き刺す方向であれば当然破れやすい。
逆に、腫瘍表面の接線方向に入れると破れにくい。腫瘍の丸みに沿う方向へ鉗子を入れると、鉗子先端は腫瘍壁を突くのではなく、腫瘍表面をなでるように動く。

そして、その角度を決定するのは二点しかない。
シャフトが曲がらない限り、トロッカーの位置と鉗子先で角度が決まる。ベクトルで言うと初めの点と終わりの点が決まれば角度が決まるようなもの。

つまり、トロッカー位置と、とりたい接線方向が決まればそのベクトル上に処理したい部位を持ってくるしかないのだ。
結局、鉗子をどれだけ動かしても良い角度は全く取れない。むしろ、動かすのは左手、つまりは卵巣。うまくいかないときほど、鉗子を無理にねじ込むのではなく、卵巣の位置と向きを変える。
展開をセットすれば、勝手に角度が決まる。先にキャッチャーミットを構えてから、そこに投げ込むのだ。
ちなみに裏技的には、剥離する鉗子の位置を変えると言う手もある。具体的には左手を使うこと、つまりトロッカー位置を変えることで角度を変えるという技。

コツ2 鉗子は必ず「半開き」
展開がバッチリ決まれば、次に大切なのが、鉗子の動かし方。特に開く幅。
剥離は鈍的となる。卵巣と腫瘍の間に血管は少なく、基本は鈍的に剥離。鉗子を開くことで卵巣実質と腫瘍の間を広げ、血管があれば凝固止血が基本となる。
ここで鉗子は半開き。大きく開くと今までの展開が全て無駄となる。先端が腫瘍壁に向かう角度に変わってしまう。必ず、「半開き」を細かく繰り返す。
副次的な効果は出血予防。優しく数ミリずつ層を広げるとわずかにある血管を破綻させずに周りのfasciaのみを処理することができる。
疲れてくると、知らないうちに口が半開きとなり、鉗子は本開きとなる。最後まで丁寧に行こう。keep a stiff upper lip.
コツ3 助手をコントロールする
最後は助手。コツ1はなんでしょう。そう、卵巣の位置で全てが決まると言う話。
そして卵巣の位置を決めるのは助手!つまり、この手術、助手と左手が最も大切と言っても過言ではない(過言かもしれない)。
助手に生涯使ってはいけない言葉
「いい感じに引いてください」
やばい!と同じで解像度が荒すぎる。
助手との展開の基本は以前、ポテトチップスの開封に例えて解説した。
内容を簡単にまとめると
まず術者自身が左手や右手で最適な展開を作り、右手を助手に持ち替えてもらう。
「この位置で固定してください」
「この方向のまま動かさないでください」
「力を少しだけ弱めてください」
場所、方向、力加減を具体的に共有する。
助手に展開をしてもらうのではなく、術者が作った展開を助手が保存する。この意識を持つと、術野が急に動くことが減り、接線方向と半開きを維持しやすくなる。
何より、事前にやりたいことを共有しておくとよりやりやすくなる。背景知識や目的が共有できれば最小限のコミュニケーションでスムーズに進めることができる。つまり、最も大切なことは、この記事の共有といっても過言ではない(過言である)
それでも破れる腫瘍はある
ここまで気をつけても、すべての卵巣腫瘍を無破裂で核出は不可能。
特に、多房性腫瘍では破裂しやすい。表面が一つの滑らかな球面ではなく、出っ張りやくびれがあり、違う房に移行する時に接線方向から力を加えることが難しい。
また、構造的に限界がある。腫瘍壁が極端に薄い場所や、卵巣実質との境界が不明瞭な場所がある。癒着や炎症が強ければ、正しい層そのものが失われている場合もある。
破らないために、最後まで形を整える
まとめると、卵巣腫瘍を破らずに核出するために大切なのは、力強さではなく、角度と幅と固定。
鉗子が腫瘍の接線方向に向くように展開する。
鉗子は半開きで細かく動かす。
助手をコントロールする。
そして、どうしても破れる構造があることも理解しておく。
次の卵巣腫瘍核出術では、剥離を始める前に「接線、半開き、助手」と一度唱えてみよう。
オペ看さんから奇異の目でみられてから始まるものがある。
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4択問題
問題
卵巣腫瘍核出術の終盤で、腫瘍破裂を減らす操作として最も適切なのはどれでしょうか。
A. 腫瘍を固定し、鉗子を腫瘍中心へ向けて大きく開く
B. 助手に自由に牽引方向を調整してもらう
C. 卵巣の位置や向きを調整し、鉗子を接線方向に入れて半開きを繰り返す
D. 無破裂を最優先し、正常卵巣を含めて広く切除する
解答
C
解説
腫瘍表面の接線方向に鉗子を入れると、鉗子先端が腫瘍壁へ突き刺さりにくくなります。さらに半開きを細かく繰り返すことで、一度に大きな力がかかるのを防げます。助手には自由に動いてもらうのではなく、術者が作った展開を一定方向・一定の力で固定してもらうことが重要です。
