「円靱帯なんてどうでもいいでしょ。」そう笑いながら友人はビールジョッキを口に運んだ。私は「どうでも良くない!」と心の中で叫んだ。机に置かれたままのビールジョッキを見つめたまま言語化できない自分を悔いた。
初めてのTLHは円靱帯からはじまった。円靱帯切開ラインが少しでもずれると怒られる日々。確かに上司のいう通りに切開できるかによって手術のできは左右した。「円靱帯こそ手術のできを測る試金石だ。」そう信じていた。
年が変わり、施設が変わった。円靱帯はテキトーに処理された。とりあえず真ん中で切られた。私の中で何かが崩れた。常識は非常識となった。
円靱帯の処理と聞いてどうだろうか?
地味。
正直、コンビニのレシートぐらい地味。
そう思う人が9割。
ただ、円靱帯は子宮全摘において初めに処理することが多い。何事も始まりの場所というのは大切だ。旅行ならどうだろう。例えば、京都に旅行するにも、滋賀からなのか、兵庫からなのか、佐賀からなのかで、かかる時間も行き方も違う。”出発点”は大切であり全てを決める。それは手術でも同様。円靱帯も大切な始まりの場所。円靱帯切開がすべてを決めると言っても過言ではない(過言かもしれない)
今回のテーマは、円靱帯処理。普段は見過ごされがちな地味な処理。10年間考え続け、見えきた世界がある。熟成させた切開ラインの選び方や処理についてごっそりお伝えする。
今回は円靱帯がすべてを決める理由と、円靱帯の具体的な処理方法について。どうぞお見逃しなく。
なぜ円靭帯がすべてを決めるのか
円靱帯の処理が大切な理由は
「広間膜腔における層の選択、交差部の同定に直結するから」
少し難しいと思う人もいるかもしれない。ここでピンとくれば、正直技術認定医レベル。広間膜腔とは何か、層とは何かを話し出すとそれだけで1記事がかけるので割愛するが、今の時点では、
場所ややり方が違えばしやすさが変わる
→尿管や子宮動脈の見つけやすさがかわる
ぐらいに思ってもらって良い。
噛み砕くならポテトチップスの袋の開け方。手でガバッと開けるのか、はさみで開けるのか、はたまたうしろからパーティー開けするのか。
後の展開が大きく変わってくるはずだ。一人でソファーで寝っ転がりながら食べやすいのか、手を汚さず綺麗に食べやすいのか、テーブルに広げみんなで食べやすいのか。(個人的には鈍的剥離、鋭的剥離、後方アプローチの理解とつながると考えている。きっと読み続ければ同じ考えになる。)
切開場所や方法によりその後のやりやすさが大きく異なってくるのだ。具体的な処理はどのようにすればいいだろうか。
展開をスムーズにする円靱帯の処理方法
円靭帯の処理が甘いとその後の展開が難しくなる。周りの組織も含めてしっかり切りきらないと突っ張りとなり、広間膜腔の展開がかなりやりにくくなる。例えば次の画像を見てほしい。なかなか尿管が見つからなかった時の展開の様子だ。

円靱帯が切りきれていないのがわかるだろうか。切りきれていないと固い繊維が突っ張って展開がうまくできず、奥の腔が開きにくくなる。そうすると尿管や子宮動脈が見つかりにくい。
処理は大雑把にきっちり焼いて切るだけ
円靭帯の切り方は、一言でいうなら「凝固した後にきっちり切開しようとなる。」
言葉にすると実にアホらしいが、できていない時が多々ある。
円靱帯周囲の具体的な解剖
きっちり焼いて切るためには、解剖を知る必要がある。ステーキ肉なのかホルモンなのかで大きく焼き方や切り方は異なる。種類を知らなければ良い処理はできない。
解剖円靭帯の本体は硬い繊維。ここから大きな出血はしない。せいぜい毛細血管からにじむぐらい。
円靭帯の裏には血管がある(回旋枝や円靱帯下などと呼ばれている血管)。ここが出血すると絨毯にこぼしたワインぐらい悲惨な状況となる。

つまり、解剖としては、硬い円靱帯そのものと、その下を通る出血しうる血管、それを包む腹膜(漿膜?)が存在する。円靱帯、下血管、腹膜の3つだ。
円靭帯の本体は硬い繊維で出血しないが、中の毛細血管からにじむので軽く凝固が必要。
そばを走る下血管の処理が1番の山場。これは子宮動脈本幹ぐらいの気持ちで処理することをお勧めする。位置を把握した上での凝固が必要。
腹膜は先に切っておくと円靱帯や下血管を単離できて便利。意識して処理できると安全に手術をすることができるし、単離の技術を磨くことができる。
円靭帯処理 3パターン
パターン①:まとめて処理(腹膜ごと円靱帯と下血管をまとめて凝固切開)
パターン②:血管のみ単離して処理(円靭帯を半分切開して、腹膜を展開し下血管を単離し凝固切開)
パターン③:すべて単離して処理(腹膜を切開し、円靱帯と下血管をそれぞれ単離し凝固して切開)
の3つになる。もう少し詳しく言うと
パターン①:まとめて処理
円靭帯を伸ばすテンションかけて腹膜ごと円靭帯を凝固し切開。切りきれないことも多いので2.3回繰り返さないといけないこともしばしば。斜めにずれるリスクが高く、まっすぐ処理できるように円靱帯の向きの細かい調整が必要。
パターン②:血管のみ単離して処理
①同じテンション。円靭帯を腹膜ごと一部切開。腹膜と円靭帯の間に鉗子を入れ剥離し腹膜を展開。下血管を単離し凝固切開。

③:まず円靭帯と骨盤漏斗靭帯の間の腹膜を切開(下血管を視認しながら)。その後円靭帯奥の腹膜も切開し、円靭帯を単離し凝固切開。手間はかかるが必ず切り切れるため一番安全。

結局どれがいいの?
一番安全で安定するのは③(腹膜をあけてから凝固切開)。
円靭帯とその裏の血管を単離できるので一番確実に処理ができる。特に子宮動脈の上行枝や附属器系の血管を傷つけるリスクが減るためその後の展開としても安心感がある。

剥離せずに行うことに慣れていると、癒着の時や大きな子宮の時に血管が近くなって出血や多臓器損傷に繋がりやすい。
癒着も全くなく、急ぐなら①(腹膜ごと強くけん引して凝固)でよいが腹膜は開けたほうがよりしっかりと切開でき、その後の広間膜腔の展開が楽になる。腹膜ごと凝固し切ると境が分かりにくくなり、切り残しのリスク。何より腹膜を切って単離するようにすると、腹膜切開や単離の手技が取得できる。傷つけてもリカバーしやすい場所で取得できる。
ちなみに②と③の違いは円靭帯の切開場所の選択を腹膜展開前にするかどうか。今わからなくて大丈夫。次の記事が役に立つこと間違いなし。
次回はいよいよ円靱帯の切開場所。
今日からやれること
円靭帯を切開時は、血管の処理をどのタイミングでするか考える。
まとめ問題
円靭帯切開の方法に関して、以下の選択肢から最も汎用的なものを選んでください。
- A. 腹膜ごと凝固して切開
- B. 円靭帯を半切開して、腹膜を展開し単離し凝固して切開
- C. 腹膜を切開し、単離し凝固して切開
- D. 凝固せずに切開
正解:C. 腹膜を切開し、単離し凝固して切開
解説:
円靭帯切開の方法は、以下の3つのパターンがあります。
- 腹膜ごと凝固して切開
- 円靭帯を半切開して、腹膜を展開し単離し凝固して切開
- 腹膜を切開し、単離し凝固して切開
この中で最も安全で安定する方法は、「腹膜を切開し、単離し凝固して切開」です。円靭帯とその裏の血管を単離できるため、子宮動脈の上行枝や附属器系の血管を傷つけるリスクが減ります。
剥離せずに行うと、癒着の時や大きな子宮の時に血管が近くなって出血することがあります。癒着も全くなく、急ぐ場合には腹膜ごと強くけん引して凝固する方法でよいかもしれませんが、腹膜は開けたほうがよりしっかりと切開でき、その後の広間膜腔の展開が楽になると思います。腹膜ごと切ると切り残しが多い印象があります。
次回、円靱帯の切るのってどこがいいんですか? です。お楽しみに。
